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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)393号 判決

東京都品川区西五反田七丁目二二番一七号

昭和五〇年(ワ)第三九三号事件原告 同年(ワ)第一四四九号事件被告 ユニバース・トレイディング株式会社

右代表者代表取締役 関口俊太

右訴訟代理人弁護士 後藤孝典

同 新美隆

同 高橋耕

東京都千代田区丸の内一丁目六番二号

昭和五〇年(ワ)第三九三号事件被告 同年(ワ)第一四四九号事件原告 株式会社第一勧業銀行

右代表者代表取締役 横田郁

右訴訟代理人弁護士 原増司

右訴訟複代理人弁護士 酒井正之

右訴訟代理人弁護士 中川登

同 平川純子

東京都大田区久が原五丁目一番一―三〇六号

昭和五〇年(ワ)第一四四九号事件被告 関口俊太

右訴訟代理人弁護士 後藤孝典

同 新美隆

同 高橋耕

主文

一  昭和五〇年(ワ)第三九三号事件原告ユニバース・トレイディング株式会社の請求をいずれも棄却する。

二  昭和五〇年(ワ)第一四四九号事件被告ユニバース・トレイディング株式会社、同関口俊太は同事件原告株式会社第一勧業銀行に対し各自

1  金一、〇六五万二、二三九円及び内金九五二万〇、一五三円に対する昭和四九年一二月二五日から、内金一〇四万六、七〇〇円に対する昭和五〇年三月一日から、各支払ずみまでいずれも年一割四分の割合による金員を、

2  米貨金一、三五五ドル五九セント及びこれに対する昭和五〇年一月一四日から支払ずみまで年一割四分の割合による金員を、

各支払え。

三  訴訟費用は昭和五〇年(ワ)第三九三号事件、同年(ワ)第一四四九号事件を通じて、これを二分し、その一を同年(ワ)第三九三号事件原告ユニバース・トレイディング株式会社の負担とし、その余を同年(ワ)第一四四九号事件被告ユニバース・トレイディング株式会社、同関口俊太の連帯負担とする。

四  この判決は第二項にかぎり仮りに執行することができる。

事実

(以下、昭和五〇年(ワ)第三九三号事件原告・同年(ワ)第一四四九号事件被告ユニバース・トレイディング株式会社を原告会社、右第三九三号事件被告・第一四四九号事件原告株式会社第一勧業銀行を被告銀行、右第一四四九号事件被告関口俊太を被告関口と表示する。)

第一当事者の求めた裁判

(昭和五〇年(ワ)第三九三号事件)

一  請求の趣旨

1  被告銀行は原告会社に対し、金一、〇三六万八、三三六円及び内金八四一万五、〇三六円に対する昭和五〇年一月二九日から、内金一九五万三、三〇〇円に対する同年二月二八日から、各支払ずみまでいずれも年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告銀行の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  主文第一項同旨の判決

2  訴訟費用は原告会社の負担とする。

(昭和五〇年(ワ)第一四四九号事件)

一  請求の趣旨

1  主文第二項同旨の判決

2  訴訟費用は原告会社及び被告関口の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する原告会社および被告関口の答弁

1  被告銀行の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は被告銀行の負担とする。

第二当事者の主張

(昭和五〇年(ワ)第三九三号事件)

一  請求原因

1  原告会社は被告銀行に対し、昭和四八年六月一五日元金七四八万八、八一九円を満期日昭和四九年一二月一五日、満期日までの利息金五七万三、四一七円との約定で定期預金契約を締結し、同日被告銀行に右元金を交付した。

2  原告会社は被告銀行に対し、昭和四九年一一月七日金額三五万二、八〇〇円・振出人南方物産株式会社・支払期日同年一二月二二日との各記載のある約束手形一通について手形金の取立を委託し、被告銀行は右委託に基づき支払期日に約束手形金を取り立てた。

3  原告会社は被告銀行に対し、金額一九五万三、三〇〇円・振出人株式会社三明商店・支払期日昭和五〇年二月二八日・支払場所吹田市との各記載のある約束手形一通について手形金の取立を委託し、被告銀行はこれを承諾したが、その後原告会社は被告銀行に対し昭和四九年一二月二八日到達の書面で右手形金取立委任契約を解除する旨の意思表示をした。しかるに被告銀行は右支払期日に約束手形金一九五万三、三〇〇円を取り立てた。

4  よって、原告会社は被告銀行に対し、右定期預金元金及び利息合計金八〇六万二、二三六円、並びに右二通の約束手形取立金合計金二三〇万六、一〇〇円以上合計金一、〇三六万八、三三六円と、うち前記1・2の金員合計金八四一万五、〇三六円に対しては本訴状送達の翌日たる昭和五〇年一月二九日から支払ずみまで、うち前記3の金員一九五万三、三〇〇円に対しては手形金を取り立てた同年二月二八日から支払ずみまでいずれも商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし3の事実はすべて認める。

三  抗弁

1(一)  原告会社は、被告銀行との間において、昭和四六年八月三一日商業信用状約定、同年九月七日銀行取引約定を締結し、これに基づいて、被告銀行に対し、昭和四九年五月二五日別紙信用状目録(イ)記載の取消不能信用状(以下単に「(イ)の信用状」という。)の、同年六月一七日別紙信用状目録(ロ)記載の取消不能信用状(以下単に「(ロ)の信用状」という。)の各開設を委託し、被告銀行は右委託に基づき同年五月二七日(イ)の信用状を、同年六月一九日(ロ)の信用状をそれぞれ開設した。

(二)  被告銀行は昭和四九年九月七日(イ)及び(ロ)の信用状に基づきナショナル・バンク・オブ・エジプト(以下単に「エジプト銀行」という。)から(イ)の信用状につき米貨一万七、四八二ドル五〇セント、(ロ)の信用状につき米貨四万一、八七五ドルの船積書類の送付を受けるとともに右金員の支払請求を受けたので、原告会社に対し同年一二月一一日到達の書面で同月一三日までに被告銀行に右金員の支払をなすよう催告したが、原告会社はこれに応じなかったので被告銀行は同月一六日エジプト銀行に右金員を支払った。

(三)  原告会社は被告銀行に対し、前記昭和四六年八月三一日商業信用状約定書において「原告会社は被告銀行が商業信用状に基づき本邦以外の貨幣によって支払をした場合には支払日の被告銀行所定の為替相場をもって換算した邦貨により支払う」旨約したので、被告銀行の支払った前記米貨を支払日である昭和四九年一二月一六日の邦貨換算為替レートにより邦貨に換算すると、(イ)の信用状については金五二六万五、七二九円、(ロ)の信用状については金一、二六一万二、七五〇円となる。

2  被告銀行は、(イ)及び(ロ)の信用状の発行、条件変更等の委任事務処理のために電信費用として金五万六、七一〇円を出捐した。

3  被告銀行は原告会社に対し、昭和四九年一〇月二九日金三〇〇万円を弁済期昭和五〇年一月二九日の定めで貸し付けた。

4(一)  被告銀行は原告会社に対し、昭和四九年一二月一八日ころ到達の書面で請求原因1の定期預金元金及び利息債権合計金八〇六万二、二三六円を、抗弁1の信用状開設契約に基づく補償金債権のうち、(イ)の信用状に基づく債権元本金五二六万五、七二九円、及び抗弁2の電信費用償還債権金五万六、七一〇円の各全額、並びに抗弁1の(ロ)の信用状に基づく補償金債権元本金一、二六一万二、七五〇円の一部とを同月一六日付でその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

(二)  被告銀行は原告会社に対し、昭和四九年一二月二六日ころ到達の書面で請求原因2の取立金返還債権金三五万二、八〇〇円と右(ロ)の信用状に基づく補償金債権のうち右(一)の相殺後の残債権元本金九八七万二、九五三円の一部とを同月二四日付でその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

(三)  被告銀行は原告会社に対し、昭和五〇年三月六日ころ到達の書面で請求原因3の返還債権金一九五万三、三〇〇円と抗弁3の貸金債権金三〇〇万円とをその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

抗弁1(一)、3、及び4の各事実は認めるが、その余の事実は争う。

五  再抗弁

1(一)  被告銀行は本件各取消不能信用状開設契約において原告会社に対し提供船積書類が信用状に定められた条件に一致するか否かについて書類のみを基準として審査を尽し、右条件が一致する場合に限りエジプト銀行に信用状に基づく支払をなす旨約したが、被告銀行は右審査義務を怠り、エジプト銀行から送付を受けた船積書類に本件各信用状に定められた条件と異なる左記条件不一致があったにもかかわらず同銀行に信用状に基づく支払をなしたのであるから、原告会社は被告銀行に対し本件各信用状による補償金の支払義務を負わない。すなわち、(イ)の信用状に関しては

① 船荷証券中に船積年月日の記載がないこと。

② 船荷証券が無効であること。

③ 商品の船積が信用状条件である昭和四九年一〇月中より以前になされていること。

(ロ)の信用状に関しては

全商品が後記信用状条件に反し、昭和四九年八月五日に船積されていること。

(二)  ところで、右の(イ)の信用状に関する③の条件不一致、及び(ロ)の信用状に関する条件不一致は、左記理由により原信用状の船積期限等の条件が変更されたため発生したものである。

まず本件各信用状の条件変更の効力発生要件であるが、本件各信用状には国際商業会議所制定の「荷為替信用状に関する統一規則および慣例(一九六二年改訂)」(以下これを「統一規則」と略称する。)に従う旨の適用文言の記載があり、また条件変更についての国際私法上の準拠法は後記のように日本法でありかつ右統一規則は我国において慣習法として定着しているから、右統一規則は本件各信用状の関係当事者全員を拘束する法的効力を有するものであるところ、取消不能信用状の条件変更について右統一規則第三条第三項は関係当事者全員の同意を要件とする旨規定している。

なお、右統一規則第三条第三項の関係当事者とは、信用状発行依頼人、発行銀行、受益者等を指し、通知銀行、買取銀行、及び譲渡可能信用状における譲渡後の譲渡人は含まれない。

ところで右関係当事者全員の同意は次の経緯により得られたものである。

すなわち、原告会社は被告銀行に対し、(イ)の信用状については昭和四九年七月一七日 (ロ)の信用状については同月一八日それぞれ次のような信用状条件の変更を申出た。

(イ)の信用状に関し

① 船積期限を同年一〇月三〇日に、信用状有効期限を同年一一月一五日にそれぞれ延期すること。

② 特約として、商品の船積は同年一〇月中になすべきこと。

(ロ)の信用状に関し

① 右(イ)の信用状に関する①と同じ。

② 特約として、フラックス・ファイバー五トンについては同年七月又は八月中に、フラックス・ファイバー二〇トン及びブロークン・フラックス五トンについては同年一〇月中にそれぞれ船積をなすべきこと。

被告銀行は右条件変更の各申出日の翌日迄に右各申出を受けてこれに同意し、同年七月一八日(イ)の信用状の、同月一九日(ロ)の信用状の各条件変更申出の通知を通知銀行であるエジプト銀行宛にテレックスで打電し前各同日右通知はエジプト銀行に到達した。

受益者アラブ・フォーリン・トレード・カンパニー(以下単に「アラビンペックス」と略称する。)は被告銀行からの前記条件変更の通知をエジプト銀行経由で受けた後受益者モハメッド・オー・エル・アシュリー(以下単に「アシュリー」という。)に(ロ)の信用状に関する条件変更の同意を得たうえで、同月二二日原告会社に対し、(ロ)の信用状の商品フラックス・ファイバー五トンの分割船積及び(イ)及び(ロ)の信用状のその余の商品の一〇月中の船積について同意する旨の電信を発して、(イ)及び(ロ)の信用状に関する前記各条件変更申出に明示、少なくとも黙示の同意をなした。

なお、本件(ロ)の信用状は昭和四九年八月五日までに受益者アシュリーからアラビンペックスに譲渡された。

(三)  かりに、受益者アラビンペックス及びアシュリーが前記各条件変更申出に対し明示又は黙示の同意をしなかったとしても、受益者らは被告銀行に対し遅滞なく右変更申出に諾否の意思表示をしなかったので、我国商法第五〇九条の規定により受益者らは右条件変更申出に同意したと看做されるから原告会社の条件変更申出どおり条件変更の効力が生じている。

まず、本件信用状取引の準拠法は日本法である。すなわち、本件信用状当事者間においては明示の準拠法指定はなされていないものの、信用状に関する準拠法については支払地の法によることが信用状取引一般の慣習であり、したがって本件信用状当事者間においても支払地である日本の法律を本件信用状に関する準拠法とする旨の黙示の合意があった。かりに右黙示の合意がないとしても条件変更申出の効力は関係当事者の同意に関らしめられているから契約の申込、承諾と法的性質を同じくし、法例第七条第二項、第九条第二項の適用により行為地法である日本法がその準拠法となる。

そして、被告銀行と受益者アラビンペックス間には本件信用状取引以前にも一度信用状取引があり、また商法第五〇九条が商取引における迅速性を尊重する規定であるところ信用状発行銀行と受益者とは常に国を隔てた遠隔地にあり迅速処理の必要性が高度であるから被告銀行と受益者らとの間には商法第五〇九条にいう取引があったといえる。かりに、被告銀行、受益者ら間に商法第五〇九条の取引がないとしても、本件においては右迅速処理の必要性が高度であることに鑑み、商法第五〇九条が準用されるべきである。

(四)  またかりに、商法第五〇九条の準用がないとしても、我国においては、慣行として条件変更の申出に対し回答をしない場合は条件変更に同意したものと取扱われており、被告銀行もこの慣行に従って処理しているなど条件変更の申出に対し不同意の回答をしない場合には条件変更に同意したと看做される事実たる慣習があり、本件各信用状取引当事者は右慣行による意思を有していた。

2  被告銀行は、昭和四九年九月一三日ころ及び同年一〇月一二日ころの二回にわたり本件各信用状の買取銀行であるエジプト銀行に対し条件不一致を理由に本件各信用状に関して支払をしない旨の最終的態度表明である支払拒絶の通知(不渡通知)をなし、その旨原告会社に連絡して、原告会社に対し本件各信用状に基づく補償金請求権を放棄した。なお、仮りに被告銀行において、右補償請求権の放棄がその真意に反する旨主張するとしても、原告会社はその真意でないことを知らず、また知り得なかったものである。

3  被告銀行は有効に本件条件変更がなされておらず信用状と船積書類間に条件不一致が存しないことを知っていたのならばその旨原告会社に通告すべき信用状開設契約上の義務があるのにこれを怠ったうえ原告会社に対し条件不一致を前提とする照会をなしたほか前項のように二回にわたる不渡通知を発するなどしたため、原告会社は右条件不一致が存すると信頼し条件不一致がないと分かっていれば採りえた受益者譲受人であるアラビンペックスに対する条件一致を前提とする損害回避のための和解又は商事仲裁の方法を採ることができなかったのであるから、被告銀行の右真意に反する表示は禁反言の法理、権利失効の法理に照らして、信用状開設契約上の信義誠実の原則に反し、従って被告銀行は本件補償金債権をもって相殺することは許されない。

六  再抗弁に対する認否等

1  再抗弁1(一)は争う。本件各信用状の商品の船積は船積期限内である昭和四九年八月五日に行なわれたものである。また(イ)の信用状に関する船荷証券には船積年月日として一九七四年八月五日と明記されており、かつ右船荷証券は有効なものである。

同1(二)のうち、本件各信用状には統一規則に準拠する旨の記載があること、右統一規則によると本件各信用状の条件変更には関係当事者全員の同意を必要とすること、原告会社がその主張のような条件変更の申出をしたこと、被告銀行が右申出を受けて原告会社主張の日時にエジプト銀行に発電したこと、及び(ロ)の信用状が原告会社主張の日までにアシュリーからアラビンペックスに譲渡されたことは認めるが、その余の点は否認する。

統一規則にいう取消不能信用状の条件変更の要件である関係当事者とは、信用状開設依頼人・信用状発行銀行・通知銀行、及び受益者を指す。

原告会社が受益者らの同意があったと主張する昭和四九年七月二二日発信のアラビンペックスの原告会社宛の電報は、(イ)の信用状に関してはフラックス・トウ・ジャスミン五〇トンの船積準備が完了し船積指示を原告会社に求めているのみでアラビンペックスが条件変更に同意したものとはみれないし、また(ロ)の信用状については分割船積が認められている範囲内でフラックスファイバー五トンを原告会社の要求どおり穂高山丸に船積する旨の記載はあるが他の商品の船積には何ら触れていないので受益者アシュリー・譲受人アラビンペックスの両者とも条件変更に同意したものとはいえない。

同1(三)のうち、被告銀行とアラビンペックス間において本件信用状取引以前に一度の信用状取引があったことは認めるが、その余の点は争う。

取消不能信用状は取消可能信用状と異なり遠隔地間の確実な信用供与を目的とするもので、統一規則においても条件変更には関係当事者全員の同意という厳格な要件が必要とされているから右要件に同意の擬制を含めることは統一規則の精神に反し、かつ本件各信用状における右統一規則に準拠する旨の当事者の合意にも合致しない。

かりに本件において商法第五〇九条適用の有無が考えられるとしても、商法第五〇九条は、一旦成立した商取引の解除・変更申入れにまで適用されるべきではないし、さらに前記のような以前になされた一度の信用状取引では平常取引関係があるものではなく、そもそも本件では受益者らは条件変更に対し積極的な拒絶の意思を表明している。

同1(四)は争う。

2  同2は争う。

もっとも、被告銀行が原告主張のような不渡通知をなし、その旨原告会社に連絡したことは認めるが、不渡通知は統一規則の要求する手続であって信用状当事者間の信用状決済についての交渉の一経過にすぎない。

3  同3は争う。

被告銀行に条件変更の要件である受益者の同意がないことが判明したのは昭和四九年一一月二〇日ころに至って原告会社から電信文を入手しこれを検討した後であり、被告銀行には何ら内心と表示の不一致はない。

(昭和五〇年(ワ)第一四四九号事件)

一  請求原因

1  原告会社は被告銀行に対し、昭和四六年九月七日銀行取引約定書を、同年八月三一日商業信用状約定書及び信用状追加約定書をそれぞれ差し入れて、原告会社・被告銀行間にその旨の契約が締結された。

原告会社と被告銀行は、右銀行取引契約において(一)原告会社が被告銀行に対する債務を履行しなかった場合は、支払うべき金額に対し年一割四分の割合の遅延損害金を支払う(二)原告会社が被告銀行に対する債務の一つでも期限に履行しなかったときは当然被告銀行に対する一切の債務について期限の利益を失う旨約した。

2  被告関口は被告銀行に対し、前各同日原告会社の右各契約に基づき生じた一切の債務につき連帯して保証する旨約した。

3  しかるところ、被告銀行は昭和五〇年(ワ)第三九三号事件抗弁1(一)ないし(三)のとおり(イ)および(ロ)の各信用状開設契約に基づき(イ)及び(ロ)の各信用状の支払をなし、また、同事件抗弁3のとおり原告会社に対し金三〇〇万円を貸与した。

4  被告銀行は原告会社に対し、昭和四九年九月二五日米貨金一、三五五ドル五九セントを弁済期昭和五〇年一月一三日の定めで貸し付けた。

5  よって、被告銀行は原告会社及び被告関口に対し、(ロ)の信用状開設契約に基づく補償金債権金一、二六一万二、七五〇円の内金九五二万〇、一五三円及びこれに対する昭和四九年一二月二五日から支払ずみまで特約による年一割四分の割合による遅延損害金、(イ)及び(ロ)の信用状開設契約に基づく補償金債権合計金一、七八七万八、四七九円に対する同月一四日から同月一六日までの特約による年一割四分の割合による遅延損害金二万〇、五七二円、並びに(ロ)の信用状開設契約に基づく補償金債権金一、二六一万二、七五〇円の内金九八七万二、九五三円に対する同月一七日から同月二四日までの特約による年一割四分の割合による遅延損害金三万〇、二九四円、請求原因3(昭和五〇年(ワ)第三九三号事件抗弁3)の貸金三〇〇万円の内金一〇四万六、七〇〇円及びこれに対する昭和五〇年三月一日から支払ずみまで特約による年一割四分の割合による遅延損害金、同3の貸金三〇〇万円に対する同年一月三〇日から同年二月二八日まで特約による年一割四分の割合による遅延損害金三万四、五二〇円、並びに同4の貸金米貨金一、三五五ドル五九セント及びこれに対する同年一月一四日から支払ずみまで特約による年一割四分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2、4の事実は認める。同3の事実に対する認否は昭和五〇年(ワ)第三九三号事件抗弁1及び3の事実に対する認否と同一である。

三  抗弁

前記事件再抗弁1ないし3の主張と同一である。

四  抗弁に対する認否

前記事件再抗弁に対する認否と同一である。

第三証拠≪省略≫

理由

第一昭和五〇年(ワ)第三九三号事件について

一  原告会社が被告銀行に対し、(一)昭和四八年六月一五日定期預金元金として金七四八万八、八一九円を期間一年六箇月、満期日までの利息金五七万三、四一七円との定めで預け入れたこと、(二)昭和四九年一一月一七日に金額三五万二、八〇〇円、振出人南方物産株式会社・支払期日同年一二月二二日との各記載のある約束手形一通の手形金の取立を委任し、被告銀行が支払期日である同年一二月二二日に右約束手形金三五万二、八〇〇円を取り立てたこと、及び(三)原告会社が被告銀行に対し金額一九五万三、三〇〇円、振出人株式会社三明商店・支払期日昭和五〇年二月二八日、支払地吹田市との各記載のある約束手形一通の手形金取立を委任した後これを解除したが被告銀行が右支払期日に右約束手形金一九五万三、三〇〇円を取り立てたことは当事者間に争いがない。

二1  まず被告銀行主張の抗弁1の成否について判断する。

原告会社と被告銀行との間において被告銀行主張のような商業信用状約定及び銀行取引約定が締結され、これに基づいて、原告会社が被告銀行に対し、昭和四九年五月二五日(イ)の信用状、同年六月一七日(ロ)の信用状の各開設を委託し、被告銀行が右委託に基づき同年五月二七日(イ)の信用状を、同年六月一九日(ロ)の信用状をそれぞれ開設したことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によると、被告銀行は(イ)及び(ロ)の信用状の開設においてエジプト銀行に受益者振出の手形について手形金の支払権限を授与する旨信用状に表示して同銀行にその旨授権したこと、エジプト銀行は(イ)の信用状の受益者であり、かつ(ロ)の信用状の譲受人であるアラビンペックスから昭和四九年八月一五日ころ本件各信用状についての船積書類の提示を受けるとともに本件各信用状による手形金総額米貨金五万九、三五七ドル五〇セント((イ)の信用状について手形金米貨金一万七、四八二ドル五〇セント、(ロ)の信用状について手形金米貨金四万一、八七五ドル)の支払を求められ、同月二六日右請求に基づきアラビンペックスに右手形金の支払をなし、その旨被告銀行に通知し前記船積書類を送付するとともに被告銀行に対し(イ)の信用状に関する支払金の内米貨金一万一、八二〇ドル九〇セント、及び(ロ)の信用状に関する支払金の内米貨金三万八、四八二ドル三一セントをニューヨーク所在のフィラデルフィア・インターナショナル・バンクの、(イ)及び(ロ)の信用状に関する支払金の内残額合計米貨金九、〇五四ドル二九セントを同所所在のアトランティク・バンク・オブ・ニューヨークの各エジプト銀行の口座に振込み償還するよう請求し、被告銀行は同年九月七日に右船積書類の送付及び手形金の償還請求を受けたこと、その後エジプト銀行は同年一〇月一日、同月二八日、一一月一二日各到達の電信で再三にわたり被告銀行に右支払済手形金の償還を催告し、被告銀行は原告会社に対し同年一二月一一日到達の内容証明郵便でエジプト銀行への償還をなす資金を同月一三日までに支払うよう催告したが原告会社がこれに応じなかったので、同月一六日エジプト銀行の依頼どおりフィラデルフィア・インターナショナル・バンク及びアトランティク・オブ・ニューヨークのエジプト銀行口座に前記償還金、すなわち(イ)の信用状につき米貨金一万七、四八二ドル五〇セント、(ロ)の信用状につき米貨金四万一、八七五ドル合計米貨金五万九、三五七ドル五〇セントを振りこみ同銀行に右金員を支払ったことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

そして、≪証拠省略≫によると、原告会社は被告銀行に対し昭和四六年八月三一日に差入れた商業信用状約定書第五条において被告銀行が商業信用状に基づき本邦以外の貨幣によって支払をしたときは支払日の被告銀行所定の為替相場をもって換算した邦貨により支払う旨約したこと、被告銀行がエジプト銀行に前記米貨を支払った昭和四九年一二月一六日の邦貨為替レートは被告銀行所定の直物電信売相場で米貨金一ドルに対し邦貨金三〇一円二〇銭であることが認められるから、これにより被告銀行がエジプト銀行に支払った米貨を邦貨に換算すると、(イ)の信用状については金五二六万五、七二九円、(ロ)の信用状については金一、二六一万二、七五〇円となり、従って原告会社はその主張にかかる再抗弁が認められないかぎり、被告銀行に対し右の本件各信用状開設契約に基づく補償金債務((イ)の信用状につき金五二六万五、七二九円、(ロ)の信用状につき金一、二六一万二、七五〇円)を負うことになる。

2  右の点について、原告会社は再抗弁として被告銀行が取消不能信用状開設契約上の義務として提供船積書類と信用状に定められた条件との一致について審査義務を負っているところ、これを怠り条件不一致の船積書類の送付を受けたにもかかわらずエジプト銀行に信用状に基づく支払をしたものであるから、原告会社に補償金支払義務はない旨主張し、その根拠として種々陳弁するので、以下この点について判断する。本件各信用状に統一規則に準拠する旨の適用文言の記載のあることは当事者間に争いがないところ、≪証拠省略≫によれば、統一規則第七条は、銀行が相応の注意をもってすべての書類を点検し、それが文面上信用状条件に一致しているとみなされるかどうかを確かめなければならないことを定めていることが認められる。

(一) まず、原告会社は(イ)の信用状に関し船荷証券中に船積年月日の記載がないことをもって条件不一致の船積書類を受領した旨主張する。

なるほど≪証拠省略≫によると、(イ)の信用状に関する船積船荷証券には発行年月日(一九七四年八月五日)の記載はあるが、船積年月日の記載はないことが認められる。しかし、≪証拠省略≫によると統一規則第一四条は「船荷証券の日付……は、それぞれ貨物の積出あるいは発送の日付とみなされる。」旨定めていることが認められるのであるから、船荷証券に船積年月日の記載がないからといって、直ちに信用状条件に不一致があるということはできず、原告会社の主張は、その理由がない。

(二) つぎに、原告会社は(イ)の信用状に関する船荷証券が無効である旨主張するが、≪証拠省略≫によって認められる統一規則第九条によれば、銀行はすべての書類の実質的内容やその法的効力を審査する義務はなく、書類が外観上、形式上適法であり、発行依頼人の要求する条件と合致する記載があるかどうかだけを審査すれば足りるのであるところ、≪証拠省略≫によっても、(イ)の信用状に関する船荷証券に外観上形式上右のような意味で直ちに無効と解される瑕疵があるとは認められないから、原告会社の右主張は採用できない。

(三) また、原告会社は原信用状の船積期限等の条件が変更されたことを前提に、(イ)の信用状に関し商品の船積が信用状条件である昭和四九年一〇月中より以前になされており、(ロ)の信用状に関しても全商品が信用状条件に反し昭和四九年八月五日に船積されている旨主張する。

(1) 原告会社が被告銀行に対し、(イ)の信用状については昭和四九年七月一七日、(ロ)の信用状については同月一八日それぞれ次のような信用状条件の変更を申し出たこと、すなわち、

(イ)の信用状に関し

① 船積期限を同年一〇月三〇日に、信用状有効期限を同年一一月一五日にそれぞれ延期すること。

② 特約として、商品の船積は同年一〇月中になすべきこと。

(ロ)の信用状に関し

① 右(イ)の信用状に関する①と同じ。

② 特約として、フラックス・ファイバー五トンについては同年七月又は八月中に、フラックス・ファイバー二〇トン及びブロークン・フラックス五トンについては同年一〇月中にそれぞれ船積をなすべきこと。そして、被告銀行が右条件変更の各申出日の翌日迄に右各申出を受けて、同年七月一八日(イ)の信用状、同月一九日(ロ)の信用状の各条件変更申出の通知をエジプト銀行宛に発したことは当事者間に争いがない。そうして、統一規則によれば取消不能信用状の条件変更については関係当事者全員の同意が必要とされていることは、当事者間に争いがなく、受益者が右の関係当事者に含まれることは、改めていうまでもない。そこで、本件において、受益者であるアラビンペックスないしアシュリーの条件変更についての同意があったか否かについて判断するのに、信用状は、発行銀行の受益者あるいは手形の裏書人、善意の所持人に対する約定なのであるから、その取消、変更についての同意は、発行銀行に対してされるべきものと解されるところ、本件においては、受益者であるアラビンペックスないしアシュリーから発行銀行である被告銀行に対して、明示の同意がされたことを認めるべき証拠は存在しない。そうして≪証拠省略≫によれば、原告会社が右条件変更の申出に対しアラビンペックスの同意があったと主張する根拠は、アラビンペックスから原告会社宛の昭和四九年七月二二日一六時一〇分発信の乙第一四号証の五の電信文及び右同様アラビンペックスから原告会社宛の同日付一六時五五分発信の甲第一六号証、乙第一四号証の六(甲第一六号証と乙第一四号証の六とは同一文書であるが、乙第一四号証の六は本文中五行抹消されたもの)の電信文(いずれも成立については争いがない)であり、右乙第一四号証の五の電信文には、(ロ)の信用状の受益者であるアシュリーとフラックス五トンを「ほだかさんまる」に船積の手配をした旨の、また、右甲第一六号証の電信文には、フラックス五トンについてはすでにアシュリーと取決めたのでそのように船積する旨の、各記載があり、右各電信が被告銀行からエジプト銀行に対し信用状条件変更の手続をしたのちにこれと接して発信されたものであることからみると、一見、右各電信は信用状の条件変更に対する同意の趣旨のもののようにも見えないではない。しかしながら、右乙第一四号証の五の電信文には右のフラックス五トンの船積手配のほか(イ)の信用状の商品のフラックス・トウ・ジャスミン五〇トンの船積準備ができているので、原告会社の指図を請う旨の記載があるうえ、≪証拠省略≫によれば、原告会社は、昭和四九年七月五日、(ロ)の信用状の受益者であるアシュリー(生産者)に対し、(ロ)の信用状の商品のうちフラックス・ファイバー・ギザタイプ「カイザー」五トンのみを七月末日に「ほだかさんまる」に船積するよう依頼する電信文を送ったところ、アシュリーから原告会社に対し、同月一四日発信の電信をもって、原告会社の右依頼はナンセンスであり、了承し難いものであること、原告会社のために銀行の信用状を受取ることを条件に二五トンを「ほだかさんまる」に船積するものであることの回答があったこと、そこで、原告会社は、同月一六日、アシュリーに対し、右回答に強く抗議し、重ねて五トンのみの船積を要求する電信を打つとともに、貿易商のアラビンペックスに対し、この間の事情を知らせ、アラビンペックスにおいてアシュリーと連絡をとって、この間の商談をことなく処理するよう依頼する旨の電信を打ったことが認められるので、これらの事実との関連でみる限り、右乙第一四号証の五の電信は、同月一六日に原告会社がアラビンペックス宛に打電した原告会社とアシュリー間のフラックス・ファイバー五トンの船積に関する調整依頼に対するものとみるのがむしろ自然であると考えられるし、また、右甲第一六号証にしても、その形式・内容からみて、同電文は本件信用状の商品取引以外のナショナル・スピニングに関する取引の用意が出来たので原告会社の社員が到着次第交渉したいからその飛行機便を知らせてもらいたいとの趣旨のものであることは明らかであり、同電文の文頭のフラックス五トンについてはすでにアシュリーと取決めたのでその様に船積する旨の文言は、右要件を打電するにあたって、その文頭にかねて依頼を受けていたアシュリーとの関係についての話合いの結果を重ねて打ったものにすぎないものとも十分考えられるので、これらの疑いを払拭するに足りる的確な証拠も認められない以上、右乙第一四号証の五及び甲第一六号証(乙第一四号証の六も同じ)の各電信文をもってしては未だ受益者たるアラビンペックス及びアシュリーにつき信用状の条件変更の同意があったものと認めることはできず、また、右の同意があった旨の証人山村清雪の証言も右各電信文以外に同証言を裏付けるに足りるものはないから、同証人の証言もまたたやすく採用することはできず、他に本件全証拠をもってしても、原告会社主張の条件変更の同意があったことを認めるに足りないから、この点に関する原告会社の主張は採用できない。

(2) つぎに、原告会社は本件各信用状取引には当事者の黙示の準拠法指定、又は法例により我国商法第五〇九条の適用又は準用があるので受益者らには条件変更に対する同意が擬制される旨主張するのでこの点につき判断する。

まず本件各信用状取引において日本法の適用の有無について検討するに、本件について問題となっているのは信用状条件変更の成否であるから、これは信用状の法律関係の中で手形法関係を除く一般の債権法関係であるところ、この債権法関係については当事者自治の原則の適用があるので、原告会社主張の黙示的準拠法指定の有無について考えてみる。前認定の事実及び弁論の全趣旨によると、発行銀行である被告銀行の本店所在地及び本件各信用状の発行地は東京都であるが、信用状債務の履行地は被告銀行が本件各信用状においてアラブエジプト共和国アレクサンドリア所在のエジプト銀行に対し支払を委託する旨授権したのであるから、アレクサンドリアであると認められるところ、信用状は主として銀行取引において慣行的に生成発達してきた売買代金の支払を確実迅速ならしめることを目的とする制度であり、かつ発行銀行が買主に代って売買代金の支払をするものであるから発行銀行が信用状取引において主導的地位にあることは否定できない。従って、当事者間に明示の準拠法の指定がない場合においても、特段の事情がない限り、当事者としては、発行銀行の本店所在地法を準拠法として指定する意思であったと一応推測し得ないではない。しかし、この点については、信用状債務の履行地もまた信用状取引において重要性を有するものであり、本件のように発行銀行の所在地と信用状債務の履行地が異なる場合については、当事者は発行銀行の所在地法(発行地法)を指定する意思であったとも推測しえる反面、履行地法を指定する意思であったとも推測しえないではないから、結局このような場合には黙示的準拠法指定は認められないとする見解もある。しかし、仮りにそのように解するにしても、信用状取引における発行銀行の受益者に対する債務の法律構成をどのように解するにせよ、右債務が法律行為によって生ずるものであることは否定できないから、本件においては当事者の意思が分明ならざるものとして法例第七条第二項及び第九条第一項により行為地法たる日本法が準拠法になると解される。

そこで、原告会社主張の我国商法第五〇九条の適用又は準用により条件変更申出に対する受益者らの同意が擬制されるか否かについて検討するに、商法第五〇九条によって申込を受けた商人が諾否の通知義務を負うためには申込の内容がその商人の営業の部類に属する取引であることを要するが、この営業の部類に属する契約の申込とは同条の文言及び被申込者に諾否の通知義務を課することの結果の重要性に鑑み、その商人が営業とする基本的商行為に属する取引の申込と解するのを相当とし、これを余りに拡張して解釈することは適当でない。そうして、取消不能信用状の条件変更が右基本的商行為に属さないこと明らかであるのみならず、基本的商行為に密接に関連するにしても、取消不能信用状において発行銀行のなす確約は、信用状取引を律する極めて重要な意義を有するものであり、しかも信用状という文書に化体して商取引上の機能を営むものであるから、その取消及び変更も信用状取引関係当事者にとって極めて重大な利害関係があるものとして、その全員の明確な同意があることを要件としているのであって、取消不能信用状の条件変更については特段の事情がないかぎり商法第五〇九条の適用ないし準用を認めて、受益者らに諾否の通知義務を課することは相当でないものと解される。従って、原告会社の取消不能信用状の条件変更についての同意の擬制の主張も採用できない。

(3) つぎに原告会社は右特段の事情として我国の信用状取引において取消不能信用状の条件変更の申出に対し受益者が諾否の通知を発しないときは同意があったとみなされるとの事実たる慣習が存在する旨主張するが、≪証拠省略≫によっても、未だ原告会社主張のような慣行が一般的に承認されているとは認められず、他にこれを認めるに足る証拠はないから、原告会社のこの点に関する主張もまた採用できず、従って、以上述べたように、原告会社主張の条件変更が成立したことを前提とする条件不一致は認められず、被告銀行に書類調査義務違反があるとの主張は採用できない。

3  補償金請求権の放棄について

原告会社は、被告銀行が本件各信用状につき支払をしない旨の最終的態度表明である不渡通知をエジプト銀行に発し、その旨原告会社に連絡したのであるから、本件各信用状開設契約に基づく補償金請求権を放棄した旨主張し、証人山村清雪は右主張に添うような供述をするが、被告銀行が補償金請求権の放棄というような重大な処分行為をする合理的根拠については何らの立証がないばかりか、≪証拠省略≫によると、被告銀行がエジプト銀行になした支払拒絶の通知は、被告銀行が本件各信用状決済の交渉の段階において、受益者が前記信用状の条件変更を承諾したのかどうかを確知しないまま、発行依頼人である原告会社の依頼に基づき、一応したものにすぎないことが認められるので、この事実によると証人山村清雪の前記供述はたやすく信用することができず、他に原告会社主張の補償金請求権の放棄を認めるに足る証拠はない。従って、心裡留保の点を論ずる余地もない。

4  信義則違反について

原告会社は、被告銀行が条件不一致のないことを知っていたならばその旨原告会社に通知すべき義務があるのにこれを怠ったのみならず、原告会社に条件不一致を前提とする照会(ディスクレパンシー照会)をなし不渡通知を発したため原告会社をして条件不一致がある旨誤信させ損害回避の手段を採れなくした旨主張するが、前認定の諸事実、≪証拠省略≫によると、本件では条件不一致の有無は主として受益者の条件変更に対する同意の有無によって決せられるものであるところ、原告会社が受益者の条件変更についての同意があったと主張する根拠は被告銀行の関知しない原告会社と受益者間の交渉中の受益者の交信電信文であり、被告銀行が原告会社から右電信文の交付を受けたのは原告会社主張の照会、支払拒絶の通知より少くとも約一か月余後のことであり、しかも被告銀行の再三の交付要求によるものであることが認められ(≪証拠判断省略≫)、右同意の有無は本来原告会社において最もよくこれを判断しうる立場にあったのに対し、被告銀行は右の交信電信文を得て初めて右同意の有無を一応判断しうるのであって、それ以前に採った被告銀行の右同意の有無についての見解の是非につき原告会社がこれを云々できる筋合のものではなく、また≪証拠省略≫によると、本件各信用状の条件不一致の照会は、被告銀行が発行依頼人である原告会社の利益を尊重する観点から船積書類と信用状条件とを対比したうえで原告会社の意向を尋ねるための事務処理上の手続として、一応原告会社が受益者の同意がある旨主張している信用状の条件変更と現実に被告銀行が送付を受けた船積書類との間にディスクレパンシー(条件不一致)があることを明らかにしたものに過ぎず、しかもこの旨被告銀行五反田支店係員山崎清が原告会社係員山村清雪に説明されていることが認められ(≪証拠判断省略≫)、しかも、支払拒絶の通知は前認定のように原告会社の依頼に基づいて被告銀行が本件各信用状決済の事務処理のための一段階としてなされたものであるから、右照会及び支払拒絶の通知が原告会社主張のように確定的に条件不一致があることを前提としたものとは認められず、他に被告銀行において信義則に反する行為をしたことを認めるに足る証拠はない。

そうすると、原告会社の右の点についての主張も採用することができず、従って原告会社主張の再抗弁はすべて採用できないことに帰し、原告会社は前記のように本件各信用状開設契約に基づく補償金債務((イ)の信用状につき金五二六万五、七二九円、(ロ)の信用状につき金一、二六一万二、七五〇円)を負うことになる。

そして、右補償金債権については、前示二1のとおり、被告銀行は原告会社に対し昭和四九年一二月一一日到達の書面で同月一三日までに支払うよう催告しているから、同日の経過をもって遅滞におちいったというべきである。

三  相殺について

1  電信費用

≪証拠省略≫によると、被告銀行は本件各信用状の発行、条件変更等の本件各信用状開設契約に基づく委託事務処理のために電信費用として(イ)の信用状に関し金二万〇、三六六円、(ロ)の信用状に関し金三万六、三四四円(合計金五万六、七一〇円)を遅くとも昭和四九年一二月一六日までに出捐したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

2  貸金

被告銀行が原告会社に対し、昭和四九年一〇月二九日金三〇〇万円を弁済期昭和五〇年一月二九日の定めで貸し付けたことは当事者間に争いがない。

3  相殺の意思表示

被告銀行が原告会社に対し、①昭和四九年一二月一八日ころ到達の書面で前示一(一)の定期預金元金及び利息債権合計金八〇六万二、二三六円を前示二1の信用状開設契約に基づく補償金債権のうち、(イ)の信用状に基づく債権元本金五二六万五、七二九円、及び前示三1の電信費用償還債権金五万六、七一〇円の各全額、並びに(ロ)の信用状に基づく補償金債権元本金一、二六一万二、七五〇円の一部とを同月一六日付でその対当額において相殺する旨の意思表示をしたこと、②同月二六日ころ到達の書面で前示一(二)の取立金返還債権金三五万二、八〇〇円と右(ロ)の信用状に基づく補償金債権のうち右(一)の相殺後の残債権元本金九八七万二、九五三円の一部とを同月二四日付でその対当額において相殺する旨の意思表示をしたこと、並びに③昭和五〇年三月六日ころ到達の書面で前示一(三)の返還債権金一九五万三、三〇〇円と前示三2の貸金債権金三〇〇万円とをその対当額において相殺する旨の意思表示をしたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

そうすると、原告会社が被告銀行に対して請求する前記債権はすべて相殺により消滅し、その遅延損害金も結局不発生に終ったものであることが認められ、原告会社の被告銀行に対する請求はすべて理由がないことに帰着する。

第二昭和五〇年(ワ)第一四四九号事件について

一  原告会社が被告銀行に対し、昭和四六年九月七日銀行取引約定書を、同年八月三一日商業信用状約定書及び信用状追加約定書をそれぞれ差し入れて、原告会社、被告銀行間にその旨の契約が締結されたこと、原告会社と被告銀行が、右銀行取引契約において(一)遅延損害金年一割四分、(二)原告会社が被告銀行に対し債務を一つでも怠ったときは当然被告銀行に対する一切の債務について期限の利益を失う旨約したこと、被告関口が被告銀行に対し前各同日原告会社の右各契約に基づき一切の債務につき連帯して保証する旨約したこと、及び被告銀行が原告会社に対し、昭和四九年九月二五日米貨金一、三五五ドル五九セントを弁済期昭和五〇年一月一三日の定めで貸し付けたことは当事者間に争いがない。

そして、被告銀行が原告会社に対し本件各信用状開設契約に基づく補償金債権((イ)の信用状につき金五二六万五、七二九円、(ロ)の信用状につき金一、二六一万二、七五〇円)を有していたが、このうち(イ)の信用状に関する補償金債権元本全額及び(ロ)の信用状に関する補償金債権の内金三〇九万二、五九七円と原告会社の被告銀行に対する前記定期預金等債権とを相殺し、従って右相殺後の元本残額は(ロ)の信用状に関する補償金債権金九五二万〇、一五三円であること、右補償金債権は昭和四九年一二月一三日の経過をもって滞遅におちいったこと、また被告銀行が原告会社に対し同月二九日貸付にかかる貸金債権金三〇〇万円(弁済期昭和五〇年一月二九日)を有していたが、この内金一九五万三、三〇〇円と原告会社の被告銀行に対する返還債権とを相殺し、従って右相殺後の元本残額は金一〇四万六、七〇〇円であることは昭和五〇年(ワ)第三九三号事件における判断において既に述べたとおりである。

二  ところで、≪証拠省略≫によると、原告会社は前記銀行取引約定書第五条、及び第七条第一、第三項において、原告会社は被告銀行に対する債務を一つでも期限に履行しなかったときは当然被告銀行に対する一切の債務について期限の利益を失い、被告銀行は原告会社に対する債権債務を期限のいかんにかかわらず相殺でき、この場合債権債務の利息、損害金等の差引計算についてはその期間を計算実行の日までとする旨約したことが認められるところ、前記のように原告会社は被告銀行に対する補償金債務を期限である昭和四九年一二月一三日までに履行しなかったこと、そして、右計算実行の日は被告銀行において(イ)の信用状に基づく補償金債権全額金五二六万五、七二九円、及び(ロ)の信用状に基づく補償金債権の内金二七三万九、七九七円の相殺については同日一六日、(ロ)の信用状に基づく補償金債権残額金九八七万二、九五三円の内金三五万二、八〇〇円の相殺については同月二四日と定めたのであるから、原告会社は被告銀行に対し、(イ)及び(ロ)の信用状に基づく補償金債権合計金一、七八七万八、四七九円に対しては遅滞におちいった同月一四日から右同月一六日まで、(ロ)の信用状に基づく補償金債権の前示三3①の相殺後の残額金九八七万二、九五三円に対しては同月一七日から右同月二四日まで、(ロ)の信用状に基づく補償金債権の前示三3②の相殺後残額金九五二万〇、一五三円に対しては同月二五日から支払ずみまで、それぞれ特約による年一割四分の割合による遅延損害金の支払義務(につき金二万〇、五七二円、につき請求の範囲内の金三万〇、二九四円)を負うことになる。

また前記金三〇〇万円の貸金債権の弁済期が昭和五〇年一月二九日であることは既に述べたとおりであり、前認定事実によると原告会社の被告銀行に対する前示第一、一(三)の返還債権金一九五万三、三〇〇円は、被告銀行が手形金を取り立てた同年二月二八日に期限の定めなき債権として発生したものと解され、前記差引計算実行の日については何らの主張、立証もないので、原告会社は被告銀行に対し、貸金債権金三〇〇万円に対しては弁済期の翌日である同年一月三〇日から後に到来した返還債権の弁済期である同年二月二八日まで、前示三3③の相殺後の貸金債権残額金一〇四万六、七〇〇円に対しては、同年三月一日から支払ずみまで、それぞれ特約による年一割四分の遅延損害金の支払義務(なお、同年一月三〇日から同年二月二八日までの貸金三〇〇万円に対する遅延損害金の額は、金三万四、五二〇円、但し円未満切捨。)を負うことになる。

三  そうすると、原告会社及び被告関口は各自被告銀行に対し、(ロ)の信用状開設契約に基づく補償金一、二六一万二、七五〇円の内金九五二万〇、一五三円及びこれに対する昭和四九年一二月二五日から支払ずみまで、同月二九日貸付にかかる貸金三〇〇万円の内金一〇四万六、七〇〇円及びこれに対する昭和五〇年三月一日から支払ずみまで、昭和四九年九月二五日貸付にかかる米貨金一、三五五ドル五九セント及びこれに対する弁済期の翌日である昭和五〇年一月一四日から支払ずみまで、それぞれ特約による年一割四分の遅延損害金、並びに(イ)及び(ロ)の信用状開設契約に基づく補償金債権合計金一、七八七万八、四七九円に対する昭和四九年一二月一四日から同一六日までの遅延損害金二万〇、五七二円、(ロ)の信用状開設契約に基づく補償金債権の内金九八七万二、九五三円に対する同月一七日から同月二四日までの遅延損害金中金三万〇、二九四円、前記貸金三〇〇万円に対する同年一月三〇日から同年二月二八日までの遅延損害金三万四、五二〇円の支払義務を負うことになる。

四  原告会社の抗弁の理由のないことは、昭和五〇年(ワ)第三九三号事件の再抗弁に対する判断で判示したとおりである。

第三結論

以上の次第であるから、原告会社の被告銀行に対する請求(昭和五〇年(ワ)第三九三号事件)はすべて失当であるからこれを棄却することとし、被告銀行の原告会社及び被告関口に対する請求(昭和五〇年(ワ)第一四四九号)はすべて理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九三条を、仮執行宣言については同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田耕三 裁判官 海保寛 下田文男)

〈以下省略〉

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